厦门旅游 厦门鼓浪屿二日游B线 （非黄金周价格）

エストニアは、設立10年以内で企業評価額が10億ドル（約1480億円）を超えるユニコーンをこれまで10社も輩出している。そんな「IT立国」エストニアを象徴するサービスがある。

スーパーに買い物に行きたいが、家で手が離せない用事があったとする。そんなとき、ウーバーに似た配送サービス「ボルトフード」が便利だ。アルコールを頼みたければ、インターネット上の本人確認で18歳以上であると認証されれば注文できる。

一定の条件を満たせば、配達方法で「ロボット」も選べる。六つの車輪のロボットが歩道を通り家の玄関までやってくる。集合住宅に住んでいたら、スマホの通知で建物の入り口まで行けば、ロボットが待っている。これらの配送サービス、ロボットの開発、そして本人認証を行うのは、すべてエストニア発のスタートアップで、うち2社がユニコーンだ。

エストニアにはソ連時代の1960年代に、プログラミングやソフトウェア開発を行う「サイバネティックス研究所」が設立された。伝統的にテクノロジー開発と教育に重点が置かれ、優秀な技術者が育った。1991年に独立すると、インターネットの成長と国の発展のタイミングが合い、デジタル化を推進してきた。

1992年に首相に就任したマルト?ラール氏も32歳と欧州で当時最も若い首相であり、「国全体が若いエネルギー、何か始めようという起業家マインドに満ちていた」と、スタートアップ関係者は口をそろえる。独立してついに自由を得たという解放感が人々、特に若い世代の起業家精神に火をつけた。

ラール氏は政府のIT化も進めた。1990年代後半に政府は「タイガーリープ計画」を制定し、学校へのコンピューター配備やカリキュラムへのIT教育導入などを実現した。

政府は、起業環境も整えている。2014年、世界で初めて非居住者にデジタル空間で居住権を与える「E-residency（イー?レジデンシー）」を導入した。非居住者でも、オンラインでエストニアでの法人設立ができる。平均3時間で手続きは終了するという。

法人税が利益ではなく配当金に課税され、配当を行わない限り課税されない。こうした環境が設立当初の資金繰りが苦しい多くのスタートアップにとっては魅力だ。

普及が進む電子投票

役所に足を運ばないとできなかった離婚の手続きを最後に、2024年にはすべての行政手続きが基本的にネットでできることになった。

世界で唯一、国政選挙で電子投票を導入している。2005年から実施され、2023年の議会選挙では、投票率は63.5%。このうち電子投票利用者は投票者の51.1%にのぼった。初めて導入された2005年の地方選挙では投票者の1.9%にすぎなかったので、順調に伸びている。タリン大学准教授で政治学が専門のトニス?サーツさん（46）は「電子投票は、今や選択肢の一つとしてすっかり定着した」という。

エストニアがIT立国に大きく踏み出したのも、ロシアの影響がある。2007年にロシアの関与が疑われる大規模なサイバー攻撃で政府や銀行のシステムがダウンした。以降セキュリティー対策を進め、分散型のシステム構築をめざした。

国をあげてのIT化を背景に多くのユニコーンが育ったが、その第1号が無料通話アプリの「スカイプ」だ。2003年に創業。2005年には米国のネット通販大手イーベイに26億ドルという巨額で売却された。その後マイクロソフトの傘下に入り、今年5月にサービスを停止したが、ネットによる無料通話アプリの先駆けとして世界中で利用されてきた。

スカイプがエストニアの起業環境に与えた影響は大きい。冒頭に出てきたボルトフードを運営する「ボルト」、配達ロボットを開発する「スターシップ」、ネット上の本人認証の「ベリフ」はみな、スカイプの関係者が創業し、働き、出資している。そのネットワークは「スカイプマフィア」と呼ばれている。

スターシップのCEOのアーティ?ヘインラさん（53）は2014年に同社を共同創業。スカイプにも初期から参画し、音声通信を簡単にできる技術を開発した。

「スカイプの成功がエストニアの人々に可能性を示した。スタートアップは米国など他の国のものだと思っていたが、小さな国でも世界的に成功する企業を生み出せることが証明され、多くの人に挑戦意欲を与えた」

ヘインラさんはスカイプで成功した後も挑戦を続けた。「自分の才能を生かして世界に貢献したかった。スカイプのように、人々がふだんの生活の中でふれられる新しいものをつくり出したかった」。その答えが「配達ロボット」だった。「最初、ロボットに人々が拒否反応を示さないかとても不安でした。でも、いろんなところで実験してみて、そうではないとわかりました。人々はごく自然に受け入れ、あたかも前からそこにロボットがいたかのように風景の一部に溶け込んでいたのです」

すでに6カ国で実用化し、数千台のロボットが日々配達をしている。ロボットが人間の雇用を奪うことはないのか、と聞くとヘインラさんは「それは逆です。ロボットを使って作業を効率化できると、需要が増してますます多くの雇用が生まれると、これまでの導入例が示しています」。

ヘインラさんは自らを「エストニアの起業家の第1世代」というが、すでに第2世代や第3世代も登場している。

その代表格が、ネットの本人認証のベリフの創業者、カーレル?コトカスさんだ。30歳。ベリフを創業したのは20歳の時だった。コトカスさんが生まれたのはエストニアの独立後。「生まれ育った時はすでに自由な空気に満ちていました」。エストニアの島で生まれ育った。「すごく良い環境だったけど、外の世界とつながるにはテクノロジーに頼るしかない。だから小さいころからITには親しんでいた」

認証システムに興味を持つきっかけは、エストニア発のユニコーンであるネット上の海外送金システム「トランスファーワイズ（現ワイズ）」のセキュリティーの脆弱（ぜいじゃく）性を見つけたことだった。「それを指摘したら、いろいろ調べてほしいと言われて」。コロナ禍で経済の先行きが不確実となり、多くの会社の支払いが遅れて資金繰りがうまくいかなくなりそうな時もあったが、ここまで成長させた。「多くの企業が支払いを遅らせたので危機に陥りそうになりました。でも、同時にパンデミックは成長の機会でもありました。ネット上の本人認証が、金融やネット売買だけでなく、大学の遠隔の試験など、多くの分野に広がっていったので」

同社では多くのスカイプ出身の技術者が働いている。もともと医師になりたかったというコトカスさん。同社をもっともっと成長させ、いつか医療関係のビジネスもしたいという。「目標は常に変わり続けています。一つの大きいことを達成するには必ずその前に暗くて大変な時期がある。でもそれを乗り越えてこそ達成感を味わえます」

ドローンなどが成長分野に

テクノロジーに強みを持つエストニアなどバルト三国の産業だが、ウクライナ戦争開始以降は防衛産業が成長分野の一つになった。ドローンや無人戦車などの技術開発が進む。

背景には、三国に共通して防衛費の急増がある。NATOの統計によると、エストニアは2019年の約5.69億ユーロ（約967億円）、GDP比で約2.0%から、24年には約13.33億ユーロ（約2266億円）と倍以上に増えた。GDP比は約3.4%となっており、GDP比5%突破も遠くないとみられている。ラトビア、リトアニアも同様に防衛費は倍増している。

ウクライナ戦争ではドローンが求められている。2024年にはラトビア政府が主導してウクライナへのドローン供給と加盟国の製造力強化をめざす「国際ドローン連合」が立ち上がった。欧州を中心にバルト三国を含む18カ国が参加。同年は合計18億ユーロを拠出してドローンを供給した。

ドローンを開発するエストニアの企業「スレオドシステムズ」は2012年の創業で、ドローン産業界では「老舗」だ。軍事技術に興味を持つ技術者たちによって創業された。現在CEOのアルノ?バイクさん（51）はビジネス開発の専門家で2019年に加わった。バイクによると、同社の売上高はウクライナ戦争が始まった2022年には700万ユーロだったが、2023年には2000万ユーロに、2024年には4000万ユーロに達したという。

2023年は売り上げの半分以上がウクライナ向け製品によるものだったが、その後は多角化を進めており、現在は13%程度。欧州、アフリカ、中東の市場に重点を置き、日本への進出も視野に入れる。5月に千葉市の幕張メッセで開かれた国際的な武器の見本市「DSEI　Japan」にも参加した。

事業は順調に成長しているように見えるが、バイクさんは「エストニアは国内市場が小さく、機会が限られている。防衛企業は通常、地元の軍隊を最初の顧客として利益を得ることが多い。防衛分野での顧客のニーズを理解するのは難しく、特に外国の顧客の要望はしばしば機密扱いだ。エストニアは独立するまで防衛産業がなかったため、航空や防衛に必要なスキルを持つエンジニアを見つけるのが難しい」という。

「戦争で利益を得ている」という指摘に対してバイクさんは、「我々はドローンが必要な状況を生み出しているのではなく問題を解決しているだけだ」と反論する。平和に戻れば、民間向けの用途にも事業を転換したいという。「たとえば宇宙探索や惑星へのミッション、環境モニタリング。世界各地で森林火災が増えているが、そのような現場のモニタリングもできるし、災害地の人道支援などにも応用が考えられる。ドローンは情報が必要なあらゆる場所で使うことができる」と力を込める。